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●審判所 プレー権を厳しく判断
「経営の傾いたゴルフ場の会員権を買収機構に売ることで所得税が安くなる」との節税策に対し、国税不服審判所がさきごろ、〝NO〟の裁決を下していたことが、本紙による情報公開申請で分かった(平成13年5月24日裁決)。
この節税策は、会員権の譲渡損を他の所得と損益通算できる点に着目した手法。
争点は会員権のなかに、ゴルフ場の債務履行に裏打ちされた「プレー権(優先施設利用権)が残っているかどうかという点にあった。プレー権がないと会員権の譲渡損が税務上、他の所得と通算できなくなるからだ。
裁判では、国税不服審判所がゴルフ場経営者を調査し、プレー権の存否を厳しく判断している実態が明らかになっている。
国税の不服申立で争われたのは、ゴルフ会員権の買収機構が介在した節税策の是非だ。
買収機構とは、ゴルフ会員権の税務に詳しい税理士が設立した民間のコンサルタント会社グループ。
ゴルフ会員権の売却損を逆手にとった節税策、それ自体はゴルフ会員権相場の大幅な値崩れを背景としたもの。
折りしも不良債権処理問題が重なり、ゴルフ場の経営不安を呼んだこともあって、大枚の預託金を積んでいたゴルフ愛好家や投資家らが、預託金を取り戻すため裁判を起こすなど奔走する場面もあった。
ゴルフ会員権の買収機構が、こうした一連の流れを受けて「節税策」と「預託金返還請求による配当」を引っ提げて登場したのも時代の要請だった。
だが結果的には、買収機構の挑戦は現段階で抽速に終わったというほかはなさそうだ。
買取機構の絡んだ裁決は3つ。
それによると、3人の納税者はオープン前の会員権、あるいはオープン後の会員権で経営者の入れ代わったゴルフ場の会員権を約5万円程度で買取機構に売却し、損失を譲渡損として他の所得と通算して平成9年分の確定申告をした。
しかし、平成11年に納税署から「本来、ゴルフ会員権にあるはずのプレー権が消滅している」として節税策を否認され、追徴を余儀なくされた。
このため納税者は、平成12年までに納税署の追徴を不服として国税不服審判所に審査請求をしていた。
争点は、売買されたゴルフ会員権のなかにプレー件が残っているかどうかという点だ。
プレー権とは、会員がゴルフ場の施設を優先的に利用できる事実上の「権利」とされ、税務上プレー権があることでゴルフ会員権は、売買によって譲渡所得を生み出す〝資産〟としての扱いを受けることになっている。
しかし、ゴルフ場の経営が破綻するなどした場合には、プレー権の存続が危ぶまれることになる。
〝買取機構〟の節税策崩れる
不服申立にあたって、納税者のうちオープン前のゴルフ会員権を売っていた人は、「売買時点でプレー権が保証されていたし、ゴルフ場経営会社が会社更生法で更正されればゴルフ会員権の相場が立つ可能性がある」と主張。
また、施設が競売に出されたゴルフ場の会員権を売買した納税者は、「入れ代わった経営者がプレー権を認めているから、会員権の売却損は譲渡所得の損失になる」と述べていた。
しかし、国税不服審判所は売買されたゴルフ会員権にプレー権があるかどうかについて、ゴルフ場の管財人や経営者らに調査を行い、結論としてプレー権は売買時点で消滅していたと判断している。
たとえば、審判所の調査ではオープン前のゴルフ会員権に関して、①ゴルフ場経営者が会社更生法の適用を受けた後、コースの工事が中断しており、経営者の収入が限られているので新たな資金投入をしなければオープンの見通しが立たないこと②元会員にはビジター料金の半額でプレーできるのはゴルフ場経営サイドの経営政策上の暫定措置で、本来のプレー権ではないことを確認している。
施設が競売されたゴルフ場会員権でも後釜のゴルフ場経営陣に事情を聞き、サービスで元会員にプレーをさせているだけで、元ゴルフ場経営サイドから債権債務を承継したものではないことを認めている。
そして、プレー権は裁判所による競売にともなうゴルフ場への立ち入り禁止命令で消滅していると判断している。